カラン
「いらっしゃいませ」
黄色い灯りの店内で男性が微笑む
「明けましておめでとうございます
本年も『Shamrock』を宜しくお願い致します」
"シャムロック"
聞き慣れない店名に首を傾げる人は多い
「アイルランドの国花なんです」
白いリネンでグラスを丹念に磨きながらマスターは笑う
「オーナーはアイルランドが好きでしてね」
私も好きなので文句はありませんが
そう言ってオーナーは笑う
「以前アイルランドを旅したときに感じたんです、彼らは愉しそうだと」
伝統の音楽を伝統の楽器で奏で
馴染んだ音楽に合わせて老若男女が踊る
その日隣り合った者同士が大声で歴史を語り
自分のルーツを大切に守り続ける誇り高き者たち
「酒も音楽も十分愉しむには人生は短い…もちろん、恋もね」
マスターの瞳に茶目っ気が混じる
「愉しみましょう、人生を。妥協はいけませんよ」
マスターが一歩脇に退いて体を開き後ろの棚を見せれば
種種様々な酒の瓶たちが店内の照明を反射してキラキラと光る
「お好きなものをどうぞ」
今の気分に合わせて…と注文をすればマスターは笑って頷く
ここに正しいルールなどない
『好き』
その理由で十分だから
「どうぞ」
優しい声と同時に丁寧な手付きでコースターに酒が置かれる
礼を言えばマスターは嬉しそうに微笑み
一口飲んで感想を言えばその笑みは更に嬉しさを増す
「あなたにとってこの一年が良い年になりますように」
宜しければこちらもどうぞ
そういってマスターはShamrockと描かれた名刺を渡した
「昼は『Clover』がお奨めですよ」
A Happy New Year
2012.1.1
naohn @ Irish Pub"Shamrock"
