過去も未来も"ありがとう"

= 2013年・父の日 =
 
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※注意※
二人の娘が出てきます
嫌という方はUターン下さい
 
 
「お嬢?」
 
トテトテトテ、と小さな足音
角から現れた幼女に渋谷は首を傾げる
 
竜二と司の一人娘・桜は未だ5歳になったばかりで
いくら敷地内でも滅多に九竜組の方には来ない
 
「お父さんは?」
 
この前までさ行の発音が危うかったのに、と
子どもの成長の早さについシミジミとする
 
「もうすぐ戻ってくると思いますよ」
 
御待ちしますか?とソファを指差せば
小さな頭はこくりと縦に揺れた
 
(いいDNAの組み合わせで生まれたよなぁ)
 
姿形は母親のミニチュア版だが
冷静沈着で表情筋の動きが乏しいところは父親似
 
シリアス顔とギャグ顔が混在する美形の母と違い
常にクールなその表情は将来の美女の片鱗を見せる
 
 
「桜?」
 
オリジナルの鉄面皮は
戻ってきたところに愛娘がいて
 
判り難いなりにも嬉しそうな笑顔を浮かべた
 
「どうしたんだ?」
 
何しろ仕事が忙しく愛娘と触れ合う時間は短い
下らない理由であっても娘の訪問が嬉しかった
 
 
「今日って父の日なの?」
 
ー 父の日 ー
 
ひざに乗せた桜の問いに
竜二が問う様な視線を渋谷に向ければ
 
PPCで手早く調べ上げた渋谷が首を縦に振る
 
「らしいな」
 
誰に聞いたんだ?、と訊けば
 
「白夜」
 
桜の幼馴染の
守門家の1人息子の名があがった
 
「お父さんにプレゼント」
 
はい、と
桜が竜二に渡した紙には
 
拙い文字でー しょうたいじょう ーと描かれていた
 
「ナイショなの」
 
結構ネタ晴らしされているのに
何がナイショなのか、と
 
竜二が首を傾げると
 
「桜~?」
 
カツカツカツとヒールが鳴る音
桜を呼ぶ司の声
 
ここか、とひょこっと現れた司は
珍しく女性らしい姿をしていて
 
「竜二、デートに行こうぜ」
 
それも自分好みの
露出度の高い服装に真っ赤な口紅
 
「何だよ、変な顔をして」
 
こういうの好きだろうが、と
呆けた夫に男前に笑った
 
 ***
「前にもこういう事なかったか?」
 
姐さんがいればBGも不要ですよね、と
万歳三唱の態で追い払われた竜二は自ら運転する
 
仕事の方は渋谷が責任を持って調整するらしい
 
「全く、あいつらは桜に甘過ぎる」
 
(その筆頭が何を言ってんだか)
 
ブチブチと文句を言う竜二を横目に
司は次の角を曲がるように指示をして
 
暫くすると竜二の運転する車は
静かに大型ショッピングモールの駐車場に滑り込む
 
 
「さて、あの"オマル"以上にインパクトのあるもの」
「…あれのことは早く忘れろ」
 
ふむ、と悩む司をドスの効いた声で脅し
酒で良いだろ、と売り場に向かう
 
「ちょっと待てって、竜…」
 
照れ隠しか相当な早歩きになったらしく
振り返れば少し距離の開いたところで
 
「彼女。あんな冷たい男放っといて俺と遊ぼうぜ」
 
見るからにチャラチャラした男に
司は声をかけられていた
 
はあ、と
溜息を吐いてさっき以上の速足で向かい
 
「俺のツレだ」
 
司の様に慣れていない男は
ドスの効いた声にピッと飛び上がって逃げ出していった
 
「あーあ、可愛そう」
 
根性の無い男をふんっと鼻で笑う竜二に苦笑し
司は着ていたワンピースの裾をつまむ
 
「お前の好みの格好をするとナンパが増える」
 
やけに乳とか足とかが露出するからだな、と
司がカカカと他人事のように笑うから
 
「脱がせてやろうか?」
 
明るいショッピングモールには似合わない
閨に合う声で
 
司の耳元で
ねっとり絡みつくように囁けば
 
子どもを産んでも未だ純情な司は
ぴっと見事に固まった
 
そんな司が楽しくて
 
「俺は別にあの日と同じデートでも良いんだがな」
 
竜二の言うあの日というのは
竜二が言った『前にもこんなこと』のとき
 
デートといっても
 
" 俺の好きなところで好きにしていいんだろ? "
 
にやっと笑う竜二に連れ込まれたホテルで
時間も忘れて酔わされたときのこと
 
思い出しても顔が熱くなる
ピンク色の想い出だから
 
「あ、あの日とは何のことかな~」
 
あはは、と下手な誤魔化しをする司に
 
「9月6日、俺の誕生日」
 
忘れたなら思い出させようか、と囁いて
竜二は司の耳にふっと吐息を吹きかけた
 
***
 
「もうあの店で買い物出来ない」
 
" ひゃあああああっ "
 
耳が受けた熱い刺激に悲鳴を上げて
ハッとして周囲を見れば
 
ジロジロと冷たい視線を浴びた
 
「そうか?」
 
恥かいたと項垂れる助手席の司とは対照的に
運転席の竜二はシレッとしたものだった
 
「公衆の面前でわいせつ行為をして」
 
睨む元風紀委員も
大人の女になれば艶が増すだけで
 
「本当にあそこで再現すっぞ」
 
竜二が顎で指す先には
ゴテゴテのネオンで光るホテル街があった
 
「あっちの方が楽しい時間つぶしが出来るな」
 
実証済みだし、と言ってみれば
司はボンッと顔を赤くした
 
「お、おま、お前! 今日は父の日だぞ?」
「だから?」
 
まるで印籠のように『父の日』を強調する司に
竜二は心底不思議に首を傾げれば
 
「俺がお前にプレゼントを贈る義理はない!!」
 
鼻息荒く言い切った司の言葉
 
「・・・・・・」
 
裏を返せば
義理があればくれるということ
 
理解した竜二は
驚きでその目を見開かずにはいられなくって
 
「な、なんだよ」
 
戸惑った司がひるんだ声で訊ねれば
 
竜二ははっとして
暫くするとにやっとして
 
「まさかお前の口からそんな言葉が出るとは」
 
待ってみるもんだ、と
感慨深げに呟く竜二に司は首を傾げる
 
何のこと、と問う司の目に
竜二はニヤッと笑って
 
「"プレゼントは私"、ってやってくれるんだろ?」
 
今までは”プレゼントはお前”止まりだったから、と
竜二は嬉しそうにニーヤニーヤ笑い
 
「あと三カ月弱。いやあ、楽しみだな」
 
(俺が…"プレゼントは私"?)
 
見るからにウキウキし始めた竜二を見ながら
司の中で桃色の想い出に色づけされた想像が広がる
 
 
『りゅ・う・じ』
 
脳裏の想像で誘うようにこちらを見るのは
リボンだけを纏った己の艶姿
 
『お誕生日おめでとう。プレゼントはわ・た・し』
 
 
「だーーーーーー!!!!!! あり得ん!!!」
 
司は大きな声で想像を振り払い
 
「狼の口にダイブしてどうする!!!!」
 
どうするって、と
司の大きなノリとツッコミに竜二は笑い
 
「勿論上から下まで美味しく頂いてやるよ?」
 
去年みたいにな、と囁いて
 
再びボンッと破裂した司の隣で
クツクツと体を折るほどに笑った
 
***
 
「終了ー」
 
" 本来の目的を忘れるなー/// "
 
ホテルに入りそうな竜二を叫んで制し
引っ張るように連れてきたのは白神家の菩提寺
 
どうなることか、と
危惧した本来の目的は無事に果たされて
 
「天気がよくて良かったな」
 
広い境内を歩きながら
司はこの時期の珍しい晴れ間に向かって伸びる
 
「今頃飲んでくれてるかな」
 
空を見ながらの司に
つられる様に竜二も空を見て
 
「飲み交わす相手も互いにいるしな」
 
飲んでるだろう、と
墓地を振り返る竜二を見て
 
その後ろ髪引かれた様な姿を
 
「行くぞ」
 
腕を引いて消し去って
前を向かせる
 
「帰ろう、桜が待ってる」
 
大切な人たちだけれどもう過去の人
 
 生きているのだから
未だ未来を見なくてはいけない
 
「そうだな」
 
司の指摘に竜二はふっと笑って
 
「・・・」
 
太陽の輝く位置に首を傾げる
 
「何時まで帰って来るな、だった?」
「ん? 確か夕飯のときだから、6時くらいまで?」
 
そう言う司の腕を竜二は
コクコクと頷いて引張り来た道を戻る
 
「何だよ、忘れ物か?」
 
ドジだな、と
笑う司に竜二は何も応えずに
 
「…おい?」
 
違う門から寺を出て
 
「何で……こんなとこにこんなもんが?」
 
立ち止まった先には
車窓から見たものと変わりないゴテゴテホテル
 
パクパクと口を開閉する司にニヤッと笑って
 
「生きてるって実感できるからじゃないのか?」
「嘘だろーー!!??」
 
嫌がる司を肩に担いで
 
「時間まで生きてるってことを堪能しようぜ」
 
離せと暴れる司をものともせずに
 
9月6日の再現だ、と
竜二は笑ってホテルのゲートを潜った
 
 
 
余談であるが
 
プレゼントは私、と
言われる予定(竜二の願望)の9月6日
 
朝からウキウキしていた竜二に
 
「ほらよ!!!!」
 
叩きつける様に贈られたのは
リボンで包んだ司じゃなくて薄い一枚の紙
 
「生きてるって実感しすぎだバカ野郎///!!!!」
 
それは命子の手による妊娠の判定書
しかもただの妊娠ではなくて
 
「・・・三つ子?」
 
騒々しい未来の到来の予感
 
竜二は唖然としながら
司を見るしか出来なかった
 
ーENDー
 

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【あとがき】
 
6月生まれのuchi様からのリクエストで
9月6日の竜二お誕生日SSを頂きまして
 
3か月先だと忘れてしまうと危惧しまして
Father's DayのSSに乗じて作ってみました
(とりあえず9月6日を連呼させて)
 
・・・言い訳ですね
uchi様、ごめんなさいm(_ _)m
 
二人の娘の『桜』は前から考えていたのですが
(桜は別のSSにも登場しています)
 
続く子どもが思いつかず
昨夜ピンッときたので早速お披露目
(こちらも忘れずに)
 
桜とほぼ6歳違いの三つ子ちゃん
 
男児2人に女児1人で
名前は龍之、俊弥、紅の3人です
 
これからも
白神家Familyをよろしくお願いします
 
2013.6.18
naohn
 
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