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♪ Amazing Grace / Lena Maria ♪
 
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ボフンッ

疲れた身体で寝台に飛び乗る
瞳を閉じて大きくため息を吐く

「不思議…」

ノリコの頭に浮かぶ様々な人たちの笑顔

この世界の人たちの笑顔
ノリコが生まれ育った異世界にいる家族の笑顔

”イザーク、このノートを家族の元に届けて欲しいの”

この異世界に来たときから書いてきた日記

”いい…のか?”

手元のノートとノリコを見比べながらイザークは戸惑った
真の目覚めをしたイザークに出来ないことはない

ノートなどではなくノリコ自身を送ることも出来た

”私はこの世界にいるの、ううん、いたいの”

それはノリコ自身が願ったことだった

「最初は泣くほど願っていたことだったのにね」

17歳でこの世界に来たノリコ
言葉も分らずただ恐怖に震えていた

帰りたい
ただそれだけを願っていた

「最初は格好いいくらいしか感じなかったんだよね」

花虫に襲われていたノリコを助けたのは19歳のイザークだった

イザークとノリコは二人共に旅をし
時に離れることもあったがずっと一緒だった

次第にノリコはイザークを想い
イザークもノリコに惹かれていった

「『天上鬼』と『目覚め』か」

この世界を恐怖に陥れる存在の『天上鬼』
その『天上鬼』を覚醒させる『目覚め』

イザークが『天上鬼』でノリコが『目覚め』

偶然の出会いではなかった
ノリコが現れた場にイザークは偶然いたのではない

ある目的があって、それは
『天上鬼』を目覚めさせるノリコを殺すことだった

「ふう」

イザークは大きくため息を吐きながら部屋に入ってきた

「やっと解放された……ノリコ? 気分が悪いのか?」

頭を掻いていた腕を下ろし急いでノリコに近づく
ノリコはゴロリと仰向いてニコリと笑った

「大丈夫、ちょっと疲れただけ。皆は?」
「俺たちのことを酒の肴にして夜通し飲むんだと」

「ふふふ、相変わらずね」

ノリコは笑いながら身体を起こした

「イザーク」
「…ノリコ?」

イザークの首に腕をまわしてノリコはギュッと抱きしめた

イザークはノリコの突然の行動に切れ長な瞳を見開いたが
直ぐに優しく微笑んで抱き返した

「どうした?」
「嬉しくって」

ノリコはくすくすと笑った

「ありがとう、私の家族になってくれて」
「…お礼を言うのは俺の方だ」

イザークはノリコの髪を優しく梳いた

「異世界の家族を捨ててまで一緒になってくれて感謝してる」

2人は顔を見合わせると自然に唇を合わせた

いつもより少し長めのキスが終わると
どちらともなく小さな笑いが漏れた

「最初ね、私は『目覚め』であるこの運命を呪ったの」
「…ノリコ」

「私はあなたを苦しませることしか出来ない存在だから」

イザークはノリコを抱く腕に力を込めた

「でもあなたを愛して、あなたに愛されて」

ノリコの腕にも力がこもる

「私は『目覚め』であることを誇りに思えるの」
「…俺もだよ」

イザークは少しだけ顔を放してノリコの顔を覗き込んだ

「俺は初めて『天上鬼』であることが嬉しかった」

(俺が『天上鬼』だったからお前を守れた)
(私が『目覚め』だったからあなたを救えた)

(『天上鬼』としての本当の存在理由が解った)
(何重にもかけられた呪いの鎖を外すことが出来たの)

「ノリコ…」
「…イザーク」

イザークはノリコを抱き上げると優しくベッドに寝かせた

「ノリコ…愛しているよ」
「私も、愛しています」

イザークはノリコに軽く口付けると
彼女が着ている婚礼衣装に手をかけた

***

ザーゴ国のジェイダ大公の屋敷にある中庭
イザークとノリコに関係した人たちが集まっていた

彼らはこの世界でイザークのノリコの大事な仲間
家族のように親身になって2人を支えてきた人々だった

「おや、やっと明かりが消えたね」

皆が何気に気にしていた部屋の明かりが消えたのに
最初に気づいたのはガーヤだった

「ははは、アイツも素直じゃないなぁ」

バルゴが杯を掲げながら大声で笑う

「ノリコのとこ行きたいって言えばいいものを」
「お前が変にからかうから、だろう?」

アルゴが苦笑して続ける

「ジーナがここに居なくて良かったよ、全く」

既に眠りの世界に旅立っているであろう娘を思い浮かべる

「ま、何はともあれ」

アレフの声に皆の手に持っていた杯が天に向かって上がる

「あの二人の結婚を祝ってかんぱーい!」

多くのカップが高い音をたて中の液体が撥ねた

- END -

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