悪戯は甘く
- Trick and Treat -
 
2013年 Halloween SS
あき様リクエスト

web拍手 by FC2

「涼子?」
 
プライベートの特別な時間
 
泉田の艶の増した甘い声に呼ばれると
涼子の背筋にゾクッと甘い戦慄が走る
 
「どうした?」
 
ふっと涼子の身体を縛る温もりが熔けて
温かい手が涼子の頬を包み
 
「…何かあるのか?」
 
少し身体を折って
涼子を覗き込む泉田の瞳
 
瞳孔に映る自分の瞳と対峙して
危うく泳ぎそうになる瞳を叱咤する
 
「ん?」
 
追い打ちをかける様に訊ねられ
穏やかな瞳が優し気に細められ
 
(…狡い奴)
 
実は、と
思わず真相を吐露しそうになる
 
考えとか
想いとか
 
涼子が自分を晒すことは無い
 
無かったのに
 
「涼子?」
 
名を呼んで
見つめるだけで
 
自分を容易く暴く
  
それが悔しくて
涼子は泉田の腕に添えた腕に爪を立てた
 
 
「別に」
 
何でも無い、と
頬を染めながらも気丈に応える涼子に
 
(…猫みたいだな)
 
痛くも無い腕に意識の一部を裂いて
猫の瞳に自分の瞳を映し出し
 
「そうかな?」
 
問い掛ければ
 
「…何さ///?」
 
僅かに速い反応
 
それが泉田の腕の中にいる緊張故か
それとも何か隠しているのか
 
(前者だったら嬉しいが)
 
違うんだろうな、と
泉田は口の端で小さく笑った
 
 
pipipi
 
 
鼓膜を揺らす無粋な電子音
 
 
「「・・・」」
 
 
違いの瞳に大きく映った自分の瞳
 
凪いだ湖の瞳では疑問が揺れて
猫の瞳はキラリと煌めいて
 
 
「Trick or Treat!!」
 
 
さっきまでの艶はどこへやら
 
まるで幼女の様な表情で
勝ち誇ったように涼子は問いかけた
 
すっかり日本でも定番になったイベント
豊穣の恵みを祝う祭りの呪文
 
 
Trick or Treat
お菓子くれなきゃ、悪戯するぞ
 
 
「泉田君?」
 
0時にセットしておいたタイマー
 
準備しておいた言葉を贈れば
目の前の泉田は戸惑った瞳で応えて
 
してやったりと
泉田の瞳の中の涼子が笑う
 
(ちょっと早くて焦ったけど、さ)
 
泉田を連れて帰宅して
リビングで酒を飲みながらと計画したが
 
帰宅したのは10分前
 
中途半端な時間をどうしようか、と
玄関の扉を潜りながら考えていたら
 
" 涼子 "
 
不意に名前を呼ばれて
重ねられた唇に驚いて
 
ちょっとだけ、と
応えたら目的を見失うところだった
 
(危ない、危ない)
 
涼子は安堵する自分を自嘲しながら
泉田の反応を待った
 
 
「なるほど」
 
何かある、と
勘が告げていた答えに泉田は内心笑う
 
目の前の涼子の瞳は期待していて
 
どうしようかな、と
泉田はしばし悩んだが
 
「うん」
 
「・・・泉田君?」
 
一人で納得した泉田に涼子は首を傾げ
そんな涼子から泉田は身体を離して
 
「はい」
 
背広のポケットに手を入れて
反対の手で涼子の手を取って
 
取り出した小さな包みを涼子の手に置いた
 
 
「…え?」
 
手をひかれ
小さな重みに目を向ければ
 
オレンジと黒
明らかにハロウィン仕様の包み紙
 
「えっと?」
 
問う様な瞳を泉田に向ければ
 
「ん? 待望の甘い物」
 
勝ち誇った泉田の笑顔
用意しておいた悪戯が消えていくから
 
「いつの間に?」
 
今日は事件で忙しかった筈
 
暇なんて無かった、と
悔しさ紛れに訴えれば
 
「あの殴り込みに行ったときにね」
 
あのビルの前にあっただろう、と
泉田に言われて涼子は記憶を辿る
 
「涼子が警備員を拷問しているときにね」
 
犯人に繋がるビルに殴り込みに行って
私設警備員たちを倒した涼子
 
" 言いなさい、貴方達の雇い主は何処? "
 
いつもの様に尋問し
5人目で答えを得たのだが
 
「あのときそんなことをしてたの?」
「危険はなかったから」
 
ケロリと言い切る泉田に
菓子屋の前に拠点を置いたあの犯人に
 
「ちくしょう」
 
滅多に言わない言葉を吐いた
 
 
「そんなに怒るなよ」
 
不貞腐れる涼子をなだめる為に
泉田は涼子の顔中にキスをする
 
膨らんでいた頬が少しだけ萎んで
怒りが治まったかな、と期待して
 
「で、涼子は?」
 
問い掛けて
 
「え?」
 
問い掛けられた涼子だったが
とろんと融けた脳では理解が難しくて
 
何だろう、と
涼子が眉を顰めて考えて
 
「わっ」
 
泉田の要求に気付いたときには
優しく押し倒されて
 
泉田の肩越しに玄関の灯りが見えて
背中には布越しに冷たい床を感じて
 
「Trick or Treat」
 
楽し気な声が降ってきた
 
 
(何か…新鮮だな)
 
組み敷いた涼子の心底驚いた表情
頭が良い彼女に勝った気持ちが沸いて
 
「え…っと」
 
戸惑って瞳を揺らす涼子に情欲が沸く
 
「どうする?」
 
早く応えて、と
急かすように涼子の衣類に手をかける
 
「え? "悪戯"って?」
 
悪戯の意味を理解した涼子は
泉田の身体の下で身をくねらせる
 
擦れあう衣類の感触
蠢く温もり
 
「…悪戯にしようか?」
 
刺激された泉田は提案してみて
肘を折って涼子に顔を近づけた
 
 
「待って」
 
涼子は泉田の胸に両手をあてて
 
「甘い物ならあるから」
 
" 今日はパンプキンパイを作りますね "
 
可愛いメイドの言葉を思いだし
残念でした、と涼子は泉田に笑ったが
 
「え?」
 
離れるかと思っていた泉田が圧し掛かり
その大きな手が涼子の手を絡め取る
 
灯りに照らされた重なり合う二つの手
 
睦み合う両の手の指
自分たちを見ている様で涼子の顔が火照る
 
「じゃあ」
 
絡み付いた泉田の手に力が籠り
 
「頂戴?」
 
低い声に涼子の背筋が粟立って 
 
「だから…リビングに…」
 
覚えのある感覚から逃げる様に
廊下の床を掻く涼子の身体を組み敷いて
 
「ダメだよ、此処になきゃ」
 
「…待って」
 
静止を求める声を聴かぬ振りして
 
「んっ…」
 
甘い香りがする首筋に唇で触れて
強く吸って花を咲かせる
 
「あ…あ……ダ、メ」
 
逃げようと身を捩る動きを利用して
シャツを引き摺り出して手を差し入れる
 
手に吸い付く肌の温もり
柔らかさ
 
ちょっとした悪戯の気持ちだったのに
本気になりかけている自分を意識して
 
「ん?」
 
逃げようとする涼子の手を?まえて
手の甲に当たったものに目を向ける
 
涼子に渡したお菓子
 
ハロウィン仕様の黒いリボン
銀糸で描かれたハロウィンの甘い言葉
 
甘い物と悪戯と
どちらが欲しい?
 
「どちらも…というのは、我侭かな」
 
甘い吐息を漏らす涼子にキスをして
そのまま甘い吐息を身の内に収める
 
熱さと甘さが身体の中で混じり合い
泉田の悪戯心に火を点ける
 
キスをして
角度を変えて
 
呼吸を促す振りをして
唇を離して身体を離す
 
見上げるトロンとした涼子の瞳
涙で滲む瞳を鏡にして泉田はネクタイを外した
 
 
ー Continue ー
 

web拍手 by FC2

続きは裏仕様となっています
 
18歳未満の方はNGです
OKという方は下の絵からどうぞ
 
次話(R-18)はこちらから
 
 
 
 
inserted by FC2 system