お疲れ様

お題:優しい響き『穏やかな魔法』
 
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「八雲君、寄って行って良い?」
 
コートを引っ張り呼び止める晴香に
八雲は肩を竦めて頷く
 
「ごめんね、直ぐに済ますから」
「別に良い」
 
秋風吹く外とは違って温かい店内
ホッと息を吐いて店内を見渡し
 
「眼、悪くなったのか?」
「違うよ」
 
両目とも1.5、と
自慢する晴香を
 
流石田舎育ち、と
八雲はからかう
 
「どうしてこう意地悪かな」
 
そんな八雲に膨れつつ
晴香は数ある眼鏡から1つを手に取る
 
「パソコン用メガネ?
 
疑問顔の八雲に晴香は頷き
鏡の中の眼鏡姿に首を傾げる
 
「こっちの方が良いんじゃないか?」
 
初めて見る晴香の眼鏡姿を新鮮に感じつつ
似合いそうな眼鏡を一緒に物色する
 
「何で突然眼鏡?」
 
これはどう?と見せる晴香に
首を横に振って応えながら八雲が問えば
 
「もう少し先生らしく見せようと思って」
 
童顔だから、と
落ち込む晴香を
 
生徒に間違えられる程じゃないだろ、と
八雲は励ます
 
因みに
晴香は高校教諭ではなく小学校の先生である
 
「そうだ、八雲君も買えば?」
「何で僕が?」
 
「尾行用」
 
探偵の必需品でしょ?、と
晴香は笑い
 
「選んであげる」
「それはどうも…でも先に君のを決めろよ?」
 
直ぐに目的を忘れる、と
八雲がこれ見よがしに溜息を吐けば
 
「これにするもん」
 
八雲が似合うと言った眼鏡を迷いなく選び
八雲に抗議するようにベッと舌を出した
 
 
Pirurururu Pirurururu
 
眼鏡の代金を支払っていると
八雲の携帯電話が鳴り取り出した
 
「…」
 
八雲の嫌そうな顔に晴香は笑う
 
「後藤さん?」
 
ため息混じりのYESに晴香は更に笑い
鳴り止まない頑固な携帯電話を指差して
 
「品物は受け取っていくから」
「悪いな…………もしもし?」
 
後半は電話の向こうの後藤に向けて
 
「熊はまともに"もしもし"も言えないんですか?」
 
溜息混じりの声が店の入口の向こうに消えた
 
(変わらないなぁ)
 
ガラス越しに八雲を観察して
昔とダブる姿に晴香は微笑んだ
 
 
「ありがとうございました」
 
一仕事を終えた店員に礼を返し
未だ電話をしている八雲の肩を軽く突く
 
『悪い』と見せたジェスチャー
晴香は首を横に振り道のカフェを指差す
 
頷く八雲に手を振って
後でね、と背を向けかけて
 
「え?」
 
強く掴まれた肩
突然のことに晴香が驚いて八雲を見れば
 
「ちょっと待って下さい………気を付けろよ」
 
後半は晴香に向けて
 甘くなった声音を嬉しく思いながら
 
巻かれ直されたマフラーに手を当て頷いた
 
 
「全く…あの人は本当に刑事だったのか?」
 
ブツブツ文句を言いながら
珈琲片手に晴香の隣に来たのは暫くしてから
 
「いいの、仕事?」
「いい…三週間休み無しだったから」
 
雇用者の義務、と
八雲は頑としつつも
 
(…天邪鬼め)
 
心配そうに眉間に皺を寄せる八雲に内心笑う
 
今日のデートは
五回連続ドタキャンの償い
 
(本当、義理堅いと言うか何と言うか)
 
晴香は飲んでいたカップを置いて
 
疲れちゃったからもう帰らない?」
 
無意識に葛藤している八雲に笑いかけた
 
 
 
「八雲君、今夜はシチューで良い?」
「ああ
 
疲れたと言ってたくせに
家に帰れば晴香は精力的に動き回り
 
「んもう、八雲君は此処に座っていて」
 
そう言って八雲をパソコンの前に座らせ
ご丁寧に大きなマグに入れた珈琲が置かれる
 
「御見通しってわけか」
 
嘆息混じりの八雲の声に
当然でしょ、と晴香は胸を張って
 
「"仕事と私、どっちが大事"なんて訊かないよ?」
 
比べられるものじゃないもんね、と
笑う晴香も教師の仕事を大切にしている
 
「だって八雲君のその眼はギフトなんだもん」
 
八雲君にしか出来ない事だよ、と
晴香は八雲の左眼に軽くキスをし
 
「折角買ったんだから眼鏡かけてみてね」
 
そう言って笑うと
眼鏡の入った紙袋を八雲の隣に置いた
 
 
「これで良し」
 
あとは煮込むだけ、と
弱火に変えて鍋にふたをした
 
(私も残っていた仕事をしようかな)
 
八雲も仕事中だし、と
リビングを覗いて仕事道具を取りに行く
 
「ん?」
 
紙の束を抱えて来た晴香に八雲は顔を上げ
机の上に黙って晴香用のスペースを作る
 
「順調?」
「まあまあ」
 
「眼鏡の着け心地は?」
「そこそこ」
 
八雲の短い答えに満足をして
晴香も袋を探って眼鏡を取り出した
 
 
く……くっくっ
 
仕事に一段落着いた頃
八雲の耳に晴香の笑い声が届く
 
見れは晴香は笑いを押し殺して
それでも身体を曲げて笑っていて
 
「それ…そんなに面白いのか?」
 
ふと涌いた好奇心で訊ねれば
顔を上げた晴香が笑って紙を渡す
 
見れば国語の答案用紙で
赤い採点結果を辿って
 
「ぶはっ」
 
珍解答に思い切り吹き出した
 
「こ…これも」
 
そんな八雲に
晴香は別の回答用紙を渡し
 
「…くっ」
 
八雲は身体を震わせて笑い転げ
この後は二人で思う存分笑い転げた
 
 
「ああ……笑い疲れた」
 
こんなの初めてだ、と仰向けに寝転がり
痛む脇腹を押えてる八雲に晴香はすり寄り
 
「大笑いすると気が紛れるでしょ?
「…また御見通しってわけか」
 
「全部じゃなくて良くない結果かなって位だけど」
「それだけ解かれば十分だ」
 
八雲が晴香の髪をくしゃりと撫でて
お返しにと晴香も八雲の髪をぐしゃぐしゃにする
 
「やっぱり八雲君って猫みたい」
「君もな」
 
私のどこが、と
抗議するトラ猫に
 
こういうとこが、と
黒猫がじゃれつく
 
「お腹空いたね」
 
黒猫の腕の中でトラ猫が呟き
 
「だな」
 
黒猫も同意し
漂う匂いに鼻を動かす
 
「仕事終わったし、飯食べながら映画観るか?」
「仕事終わったならお酒も飲んじゃおうよ」
 
ね?と訊ねる晴香に
八雲が頷くと晴香はにこっと笑い
 
「お仕事お疲れ様」
 
仰向いた八雲にキスしようとして
 
ガツンッ
 
「………」
「………」
 
ぶつかった眼鏡
思わず互いの顔を合わせて
 
「…おっちょこちょいだな」
「んもう、決まらない」
 
同時に吹き出し
 
「キスの邪魔だな」
 
八雲は晴香の眼鏡を外し
 
「だね」
 
晴香は八雲の眼鏡を外し
 
「「お疲れ様」」
 
ちゅっと唇を触れ合せた
 
 
−END−
 

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【あとがき】
 
11月の仕事のテーマに合わせて
八雲x晴香で創ってみました
 
私の場合
仕事中はメガネをかけることがしばしば
(普段はコンタクトを愛用)
 
メガネは最近J□NSで新調し
そこでPCメガネについて知って早速
 
気に入って頂けると嬉しいです
 
naohn
2013.10.21
 
 
 
 
 

 

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